東大阪病院リハビリテーション部部長 作業療法士の椎木洋子です
今日は、最近とても感動した出来事についてご紹介したいと思います。
その感動エピソードをご紹介する前に、当院の療法士の技術指導についてお伝えしておく必要があります。長文になりますので、お時間のある時にご覧ください。
当院では、臨床技術を高める療法士教育の1つとして、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)の1~3年目の療法士は月に1回必ず臨床指導を受けるように設定しています(当院リハビリ部の臨床指導制度以外の応用プログラムについてはコチラをご確認下さい)。
臨床指導とは、実際の訓練場面に先輩の療法士が同席し、実際の訓練をやってみせたり、担当療法士の治療場面を観察して、出来ている事やより効果的なポイントについて助言するしくみです。助言は「臨床指導フィードバックシート」に記録して指導を受けた療法士に手渡します。
臨床指導の対象を1~3年目とはしていますが、必要があればそれ以上の経験年数の職員も活用することができる仕組みです。
臨床指導のいいところは、その場の状況を一緒に確認できること。
そして、変わる様子をその場でやってみせられること。
“その場で” 。 これがとても大事です。
若い療法士(=経験の浅い療法士)にあるあるなのは、患者の状況をうまく表現できなかったり、聞いたことをそのまま実現できないこと。1つのシーンを見てもそこからとれる情報量は、療法士の力量でかなり差があります。さらにそこから分析して、計画に落とし込むとなると、ベテラン療法士との差は歴然としたものになります。
ただし、若い療法士が口頭でうまく患者さんの事や自分の課題を表現できないことは、ある意味必然なんです。だからと言って、若い療法士の成長を待っているだけではありません。患者さんに少しでも早くより良いリハビリテーションを提供させていただくために、若い療法士の成長を促すきっかけづくりを随所に取り入れています。
その1つの手段が臨床指導(その場での指導)です。
若い療法士とベテラン療法士のギャップを埋めるために、臨床指導(その場での指導)を行うことはとても大切で効果的な指導方法だと思っています。
さらに、「知っている」と「できる」の間に存在するギャップ。
このギャップを如何にして克服するかも非常に大切です。
療法士の仕事では、例えば何らかの治療介入を行う際に、理論はわかっているけれど、ぱっと見た目はできているようだけど、患者さんの体を適切に扱えておらず、治療効果が出せていないという問題は残念ですがよくある話です。
例えば、先輩療法士が、若い療法士が担当の患者さんの訓練を代行し、その後に「こうしたほうがいいよ」とアドバイスしたとします。しかし、基本的な患者状況を把握したり、考え方の基礎ができていない若い療法士は、何を言われているのかわからず、結局行動に移しても結果が出ません。
若い療法士は、実際に先輩療法士のリハビリによって、患者さんにプラスの変化があったとしても、直接その場面を見ていないと、効果判定も自分ではできません。
その場で、自分の目でしっかりと患者さんの変化(先輩療法士のリハビリによって生じた患者さんのプラスの変化)を見ることで、今後は自分が先輩療法士と同じように、患者さんにプラスの変化が生じるようなリハビリを施行しなければならないと自覚するわけです。言われてするのではなく、自分で気づいて行動することが大切です。
さらに、リハビリ等のやり方をその場で指導され、良くない部分は修正してもらうことができれば、患者さんにプラスの変化・効果を出せるまでに何が足りていないのかもよくわかります。
臨床指導は、患者さんの前で行うため、若い療法士にはプレッシャーがあるかもしれません。しかし、1回の治療で変化を出すには、そこは乗り越えるべきことと私は考えています。
先輩療法士は、患者さんと若い療法士の関係を崩さないように関わるため、この取り組みで患者さんから苦情を頂いたことはありません。逆に、患者さんから「今日は2人の先生に診てもらって、ありがとう」と言っていただいたこともあります。
この取り組みは、実は何年も続けているのですが、あるとき若い療法士から「全然教えてもらえない」という声が聞こえてきました。
なぜ、そう感じたのか???
実際に指導はしていますが、教えられている側の体験では「教えてもらってない」のです。
どういうことかというと…
先輩から助言してもらえることすべてを覚えることが到底難しかったのではと思います。その中には、自分じゃ理解できない内容も含まれているかもしれません。とすると、助言が効果的に生かされることもなく「できない」が続いてしまいます。
教えてもらっているというよりも、ダメだし体験になっていたのかもしれません。
そのため、「出来る」を積み重ねて、指導がしっかり活かされ(復習でき)伝わるように
「臨床指導フィードバックシート」を導入しました。
シートに記入する内容は次の通りです。
①だれから誰への助言か
②治療で良かったポイント
③さらに良くなるための進化ポイント(3つまで) など
さらに助言は、担当者の視点の少し先を意識して実施するようにとルールを決めました。
もっともっとこうすれば良いのに…という意見やアイデアは、ベテラン療法士が患者さんをみるとたくさん湧いて出てきますが、若い療法士からすると、いきなり理解できないようなことをあれこれ言われても、パニックになってしまい、結局、私はダメなんだ・・・的な思考になってしまうため、このようなカタチで進めています。
臨床指導フィードバックシートの導入は結果から判断しても、確実に患者さんにプラスの変化をもたらすことができる効果的な仕組みだと実感しています。
臨床指導フィードバックシートは指導を受けた療法士と所属長に渡します。所属長は、シートのコメント内容をチェックして、適切に若い療法士を指導できているか指導者の確認もしています。
この臨床指導フィードバックシートには、若い療法士の成長を感じるコメントが書かれています。そのため、その場にいなかった他の療法士も、それぞれの療法士の成長を知ることができます。
ここからが今日、お伝えしたかった『最近とても感動した出来事』です。前振りが長くなりましたが、このシートを導入するまでの背景や過程を知っていただきたかったわけです。
それらを踏まえて、次の写真をご覧ください。
※指導者、指導受けた側双方の療法士にお願いしてブログへのアップ許可をもらいました。
このような臨床指導フィードバックシートを見ると、導入してよかったなぁと感動します
ポイントは「いろんなことがクリアできて、1つの目標(手術後患者さんの初回評価を一人で行う)を達成できたこと」、「先輩療法士がそれをしっかり支援して、一緒に共有できていること」です。
人を育てることにどれだけの時間が費やされたか、教えることは簡単ではありません。シートを利用して、みえる化していることで、スタッフの努力をリアルに感じることができた瞬間でした。
教育は昨日今日でどうこうできるものではありません。毎日の積み重ねや信頼関係が重要だと思います。若い療法士には小さな成功体験を積み重ねてもらい、着実に一歩ずつ成長してもらいたいと考えています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
文責:作業療法士 椎木洋子
*無断転載禁止
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