回復期リハビリテーション課の理学療法士Kです。

今回は、私が主戦場としている“基礎理学療法学会学術大会”に参加して感じたことをお話しさせていただこうと思います。

基礎理学療法学会とは？

　2024年は、東京都立大学で第29回日本基礎理学療法学会学術大会(10.12-13)が開催されました。

　基礎理学療法学会は、理学療法士でも参加したことの少ない学会かもしれません。この学会で発表される内容は、解剖や組織学、生理学、生化学、病理学に関する内容から、運動学や神経学、最近ではロボットやAIを用いた理工学に関する理学療法領域の研究まで含まれています。一言で表現すると、幅広い分野の高名な先生方がふらっと質問をしに来てくださるようなアットホームな学会です(この時は緊張で汗がとまりません笑)。

発表した内容

　私は「大腿四頭筋等尺性収縮が変形性膝関節症モデルラットの膝蓋下脂肪体の低酸素状態および炎症に与える影響についての検討」というタイトルで発表をさせていただきました。こちらは、所属する大学院で進めている研究になります。
　研究の内容を簡単に説明しますと、変形性膝関節症では関節周囲の組織(滑膜や膝蓋下脂肪体)で線維化という変化が生じます。線維化は、コラーゲンなどが組織内で過剰に作られてしまうことが原因とされています。そして、線維化は痛みや動かしにくさを誘発するだけでなく、軟骨の損傷や膝関節の変形の原因となることが知られています。私の所属する研究室では、組織における“低酸素状態”が、線維化を引き起こすことを報告してきました。そこで、この研究では、低酸素状態を改善させることが可能と考えられる運動療法を用いて低酸素状態を変化させることで、変形性膝関節症で生じる組織の線維化を軽減できるのではないかと仮説をたてて実験を行いました。その結果、変形性膝関節症の膝で運動療法を行うと低酸素状態が変化し、組織の線維化が予防できることがわりました。
※2022年に低酸素状態が膝蓋下脂肪体の線維化の原因であることを報告した論文とリンク
「Inhibitory effect of low‑intensity pulsed ultrasound on the fibrosis of the infrapatellar fat pad through the regulation of HIF‑1α in a carrageenan‑induced knee osteoarthritis rat model.」【https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36158318/】

感じたこと

　基礎理学療法学会では、これまで6回ほど発表させていただいており、参加自体は8回ほどさせていただいています。その中で感じたことは、参加している先生方が皆さん楽しそうに自分の研究分野について話をされているという点です。私自身もそうですが、同じ研究領域で試行錯誤をしている先生方とお話をすることは、とても勉強になりますし楽しさも感じます。さらに、発表の質疑応答や発表後のフリーディスカッションでは臨床での経験の話にもなり、新たな視点で研究や臨床を振り返るよい機会にもなっています。

　そして、基礎研究と臨床は考察の進め方が似ているという点に気が付きました。基礎研究では、細胞や分子、遺伝子の変化をさまざまな機器を用いて確認しながら、組織の変化や治療の効果を検証していきます。一方、臨床では患者さんの訴えや理学療法所見、画像や血液データなどの所見から、何が身体機能低下の原因なのかを考え問題点を絞っていきます。これらは、見ているものは違っても、手元にある様々なデータを基に仮説を立て、科学的に検証していくプロセスは同様であると感じています。

今後

　当院では、すべてのリハビリ職員が学会発表をしているというわけではありません。しかし、発表する際には発表に慣れた職員からのサポートもありますし、学会発表に必要な費用の一部を補助してくれる制度もあります。また、大学院へ進学しながら働いているスタッフも複数おります。そのため、就職後も研究を続けたい方だけでなく、新たに研究に挑戦してみたい方にも安心して研究活動に取り組むことができる環境が整っていると思います。このブログを読んで、当院の研究活動について少しでも興味を持っていただけますと嬉しく思います。